その4 主幹事証券会社の役割(上場後)

上場時のファイナンス

上場時に会社はファイナンスを行います。公募(募集)と売出しと呼ばれるものです。公募は会社が新株を発行し会社が資金調達をすることです。売出しは既存の株主が株を売り出すことでその株主に資金が入ってくる行為です。いずれも主幹事証券会社が重要な役割を担います。具体的には何株発行するのか、何株売り出すのか、いくらで売り出すのか様々な条件を会社と一緒になって決めていきます。会社には初めてのことですので証券会社のサポートが重要になってきます。

 

値付け問題

このファイナンス時の価格決定プロセスが昨今問題になっています。いわゆる「値付け問題」というものです。2021年の暮れに公正取引委員会が動き、2022年の春に日本証券業協会が対応策を公表、2023年から実際に改革が進みはじめています。

 

事の発端は、公開価格(実際に上場初日に公募・売出しを行う株価)と初値(上場後初めて市場で形成される株価)との間に乖離があり、特に、初値が公開価格を大きく上回ると、会社(創業者株主)としては、もっと多くの資金調達ができたのに、とか、もっと多くの創業者利潤が得られたのに、という嘆きになります。

株式を引き受けて、市場に放出するのは主幹事証券会社なので、証券サイドとしてはあまり高くなり過ぎない方が嬉しいということから、利害が対立しているにもかかわらず、主幹事証券が不当に主導してしまっているのではないか、という理屈です。

 

はたして本当にそうなのか、というのは難しい問題です。価格決定はブックビルディングという公平な制度の下で形成されますし、そのレンジも、類似上場会社のPERを参考に決めています。確かに上場直後は株価が暴れがちですが、1年もすれば、ほとんどの会社の株価はこの公開価格近辺に収斂してきます。

つまり、公開価格がおかしいのではなく、初値がおかしいのではないか、これが私の思うところです。

 リンク:上場直後の株価はどうやって決まるのか

 

適時開示やIR

その後会社には上場会社として様々な責務が生じます。一つは適時開示や法定開示と行った開示の義務です。また会社の状況を正しく投資家に伝える IR 活動というのも重要です。 IR によって株価すなわち企業価値を得ることで資本コストを下げ、さらなる成長のための資金調達が可能になるからです。こういったことも新規上場会社にとっては初めての経験です。主幹事証券会社に強力なサポートを仰ぐことになるでしょう。

 

上場後の資本政策も

上場後のセカンドファイナンスやM&Aあるいは大株主などの創業者株式の売却など様々な点でも主幹事証券会社が主導的な役割を果たしてくれます。もちろん主幹事証券会社でなければならないというものではありませんが、様々なインサイダー情報を含む行為になりますので、あまり多くの関係者に情報を拡散させるのは得策ではありません。主幹事証券会社に一元的に相談できることが望ましいと言えます。