その6 主幹事証券会社の報酬

スプレッド

主幹事証券会社は、会社が上場することによって多額の収益を上げることができます。主な収益源はスプレッドと呼ばれるもので元引受契約に基づいて引受けを行い、公募価格のうち7~8%程度を引受手数料として受け取ります。

 

近年のオファリング総額(公募・売出・OA)の中央値は30~40億円です。その7~8%は2~3億円ですね。これが主幹事証券会社にとっての最大の収益源です。したがって、証券会社側はなるべく多くのオファリングをしてくれることを望みますし、逆に規模の小さいIPO案件だと特に大手証券は引き受けてくれないというのは、損得勘定が合わないからです。

 

その他様々な形で取得した株式を売買することによって多くの利益を獲得することができます。

 

コンサルティング報酬

主幹事証券会社は、上場までの1~2年の間、公開引受部が中心となって上場審査に合格するための様々なコンサルティングを行います。上述のとおり、めでたく上場ができれば多額の引受手数料が入ってきますが、世の中そう甘くはありません。

そのため、公開引受部との間で上場準備を進めている段階においてもコンサルティング報酬として、最低限の元を取っておくことが多いです。

コンサルティング報酬は会社の規模や状況によって当然違いますが、新興市場IPOの小規模会社で月額30万円~50万円くらいが多いようです。料金表があるわけではないので、交渉の余地はあると思います。

 

成功報酬

証券会社によっては、月額のコンサルティング報酬を抑える代わりに、成功報酬として最後にまとめて報酬を受け取るような契約もあるようです。本来の成功報酬は上述の引受手数料(スプレッド)ですので、こちらはコンサルティング報酬の後払い的な要素です。月額報酬とのトレードオフですが、数百万円程度が多いようです。

このあたりは証券会社選定する際の交渉材料としてもっておけば良いでしょう。

 IPO 証券会社審査への対応 その2 公開引受部との関係

 

主幹事は儲からない商売?

このように主幹事証券会社はファイナンス時のスプレッドとそれまでのコンサルフィーで収入を得ます。そして上場後も主幹事銘柄の顧客への販売やセカンドファイナンスなど、様々な面で優位に立ちます。

 

しかし、証券会社にとって、主幹事業務そのものの損得はけっして良いものではありません。年に一度程度、超大型銘柄のIPOがありますが、そういった案件では大きく稼げます。しかし、それ以外の中小型案件ではファイナンス規模は小さいですし、上場までの手間暇や時間を考えれば割に合っていません。めでたく上場前こぎつければよいものの、途中で断念するケースの方が寧ろ多いくらいです。

 

大手証券会社では社会的責務もありますので、各社とも年間10~20社程度は引き受けています。年に一度の大型IPOで元が取れるからです。しかし、中堅以下の証券会社ではなかなか採算が合わず、最近でも年間数社は引き受けていた「いちよし証券」がIPO主幹事を含む引受業務から撤退すると発表しました。

 

IPOのスタンスを明確に持っている証券会社も少なくありません。

たとえば、三菱UFJモルガンスタンレー証券は、大手証券でありながら、超大型案件若しくは三菱グループの重要顧客以外は引き受けないと明確に決めています。

また、SBI証券はネット顧客開拓のためのツールと割り切って積極的に主幹事を引き受け、副幹事に至っては全IPO銘柄の引き受けを目標に据えています。

中小証券会社でも、知名度向上や従業員の士気向上を狙って、アイザワ証券、エース証券、丸三証券、三田証券などが新たに主幹事業務に参入する動きがあります。