監査報酬の相場
新興市場に上場するようなケースでの年間の監査報酬は1千万円から2千万円程度はかかります。上場後も会社の成長とも相まって上昇し、プライム上場の中堅企業で3千万円~5千万円程度にもなります。
なぜこんなに高いのか疑問に思った方も多いでしょう。決してぼったくられているのではありません。
監査の対価は責任の対価
監査の成果物は紙1~2枚の監査報告書に集約されますが、実は監査の料金は監査報告書の料金ではありません。その責任の対価なのです。
監査人は会社の作成した決算書にお墨付きを与えるわけですが、それはその記載内容に会社と連帯して責任を負うという内容になっています。
つまり、会社が作った決算書に何らかの誤りがあった場合には監査人も同じように責任を負わされるというものなのです。ですからそのような誤りがないかどうかを必死になって調べる必要があるのです。
もし誤りがあると、株主代表訴訟の対象にもなりますし、監査法人によっては直接担当していない人も含めて無限に連帯して責任を負わされることになりますから、それが正しいかどうかの心証を得るために様々な監査手続を行って立証していくのです。
監査報酬はどうやって決まるの?
監査の対価は責任の対価、責任の大小は発生しうるリスクの大小です。
監査契約の見積書をご覧になったことがある方はご存じでしょうが、監査報酬金額は必要な作業工数に、従事者のランクごとの単価を掛け算して算出されます。本来はリスクの大きさがイコール監査報酬なのですが、リスクの大小を計数的に図ることはできないので、代わりにリスクを許容範囲まで軽減するために必要な監査工数をもって算出しているのです。
従って、シンプルなビジネスモデルの会社や誠実に全てを開示してくれるような会社は、心証を得るのに比較的時間はかかりませんので監査工数も少なくて済み、監査報酬も安くなります。逆にビジネスが複雑だったり、複数のビジネスを多角的に経営していたり、海外拠点が多かったり、固有のビジネスリスクの高い業種だったり、何か隠し事をしているような会社は、たとえ同じ業種や規模であっても監査工数がかかってしまい、監査報酬も高額になります。
監査報酬を安くするには?
上述のとおり、監査報酬は工数×単価で決まりますから、このいずれか(あるいは両方)を低く抑える工夫をすれば、監査報酬は安くなります。
まず、工数については、とにかく監査人に手間をかけさせないことです。といっても本業に必要な事柄まで省略して報酬を下げようというのでは本末転倒ですので、監査対応の仕組みを整えることです。必要な書類や情報をすべて開示し、コンピュータシステムを整備してあらゆる会計データが整然と提示でき、訊かれたことには誠実に回答し、、、といったことです。もちろんそれを実現するためには、管理部門の増員やコンピュータシステムの導入など別の費用が掛かってきますので、それらとのバランスは図る必要があります。
単価については、従事者のランクごとに決まった単価表があるのでこれを直接変えさせることは難しいのですが、なるべく単価の低い従事者(若手会計士や無資格スタッフなど)で済むように、会社の仕組みをシンプルに分かりやすくする工夫はできます。会社の仕組みが複雑だと、工数がかかるだけでなく、ベテランの会計士や特殊な専門家(金融工学とか海外担当者など)といった高単価の会計士が必要になってきてしまうからです。
中小監査法人の方が報酬は安いのか?
大手監査法人よりも中小監査法人の方が監査報酬が安いのか、という質問もよくいただきます。これは少し当たっていますが、劇的には変わらないというのが結論です。
安くなる要素としては、中小監査法人の場合には欧米の大手会計ファームに属していない分、そこへの上納金の支払がないので監査報酬への上乗せがないということです。
逆に高くなると要素として、中小監査法人には若手のスタッフが少ないので、単純作業を含めて全ての監査手続きをベテランの会計士自らが行うケースが多いという点です。もっともこれは良し悪しで、ベテランの会計士がやった方が少ない工数でできるというメリットもありますので、必ずしも高くなってしまう要素とも限りません。
結局、必要な監査手続き自体は大手監査法人であろうと中小監査法人であろうと変わりはありませんので、新興企業の監査にあっては、それほど期待ができるものではないと思ってよいでしょう。
逆に、新興企業であっても、新しい分野のビジネスを行っている、海外展開が積極的、金融やバイオなど固有のリスクが高いなどといった状況下では、中小監査法人の手に負えず、大手監査法人にしかできないために、大手監査法人は監査報酬が高い、と見えてしまう傾向もあります。
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