値決めの問題点
ブックビルディング方式は優れた方式ですが、上場申請会社の経営者など投資のプロではない人たちにとっては分かりづらく、どうしても幹事証券会社主導でプロセスが進行しがちです。前述のとおり、証券会社の営業サイドとしては安めの価格を付けて顧客に設けてもらいたいというインセンティブが働きますし、いっぽうで会社側としてはなるべく高い価格で会社を切り売りしたいところです。結果として、交渉力の強い主幹事証券会社により、公開価格が一方的に設定されるなどして、新規上場会社に不当に不利益を与えているのではないかという懸念が取りざたされていました。
公正取引委員会による調査
2022年に公正取引委員会がこの問題を調査し、幹事証券会社がその優位的な立場を利用して公開価格を不当に決めているのではないかという趣旨の調査結果を発表しています 。
東証の改革案
これを受けて、日本証券業協会と東京証券取引所は、いくつかの改善計画を発表しています。
まずひとつは、有価証券届出書を上場承認前に提出できるようにするといった値決めプロセスにおけるスケジュールの柔軟化です。
もう一つは、ダイレクトリスティングといって、値決めの話は後回しにして上場すること(リスティング)を先行させることをグロース市場でも可能にすることです。
いずれも効果のほどは限定的ですが、幹事証券会社の独壇場という現状を少しでも緩和しようという試みです。
(出所)https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/1020/nlsgeu000006l5p2-att/nlsgeu000006l5rt.pdf
本当に値決めは不当なのか?
このように改革が進められているということはこれまでの値決めはやっぱり不当だったのでしょうか。私は必ずしもそうではないと思っています。
ベースとなる株価は通常同業他社の株価を参考に決められます。従って同業他社の選定が間違っていない限り、株価はそんなにおかしな水準になるはずがありません。
それでも公開価格に比べて上場直後の株価は上がったり下がったりしますが、これは投資家の様々な思惑があるからです。
公開価格は同業他社の株価を参考にした金額から一定の IPO ディスカウントを行います。ディスカウント率は20から30%程度が多いですが、証券会社が慎重なスタンスを取る場合には40%あるいは50%といったケースも見られます。
そのため、公開価格を上回る水準で株価が形成されやすくなっており、市況が悪くない限り公開価格の2~3倍の初値が付くということも珍しくありませんし、上場後1ヶ月ぐらいの間に10倍近くに跳ね上がったケースもあります。
いっぽうで、近年のコロナ禍や2021年の12月のように IPO 銘柄が集中するような状況下では、市場に資金が集まりきらず、IPO初値が公開価格を下回ってしまうようなケースもあります。
しかし実際は、上場から1年ぐらい経つと、多くの会社の株価は公開価格近辺に収斂してきます。
つまり株価がおかしいと感じるのは上場後数カ月の短期間の間だけなのです。
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